2008年5月28日水曜日

鑑定所見書

平成19年(受)第1401号 書類引渡等・請求書引渡等請求上告事件
上告人  松〇〇〇、田〇〇〇
被上告人 株式会社セブン-イレブン・ジャパン

鑑 定 所 見 書
2008年4月3日
最高裁判所 御中

日本大学法学部名誉教授・法学博士
北野 弘久

 最高裁判所平成19年(受)第1401号 書類引渡等・請求書引渡等請求上告事件について、下記のごとく所見を申し述べる。

1 上告人松〇〇〇および田〇〇〇は、法的にも経済的にも社会的にも各独立した事業者であり各独立した納税義務者である
  被上告人セブン-イレブン・ジャパン(以下本部という)と上告人両名はフランチャイズ契約を結んでいるが、両上告人各人は、当然のことであるが、法的にも経済的にも社会的にも各独立した事業者であり各独立した納税義務者である。本部は、各加盟店(本件上告人両名を含む)に対して、継続的にセブン-イレブン・システムによる経営の指導、技術援助およびサービス(科学的市場調査、広汎かつ適確な商品情報にもとづく商品仕入援助、販売促進の援助・協力、仕入資金などの調達についての信用の供与、広告宣伝、簿記・会計処理、店舗計画、店舗・在庫品の管理の手助けなど)を行っているが(本件基本契約書第1条参照)、その事業主体・会計主体・納税主体は、いずれも本部ではなく各加盟店、すなわち本件上告人両名、それぞれである。この点は、本件の本質を考えるうえにおいて、きわめて重要である。
  たとえば、本件で問題となっている各仕入先からの上告人本人の商品仕入れについては、各仕入先と上告人本人との間の直接契約に基づいて、上告人本人の責任で、上告人本人の資金で本件商品を仕入れる。いうまでもなく仕入れた商品は上告人本人の責任で、上告人本人の店舗で販売する。販売で得られた金員は、上告人本人のものである。この間の取引について本部はいっさい関与しない。
  各仕入先については本部の推薦する店が選定されることが期待されてはいるが、各仕入先の選定の決断は、あくまで法的には上告人本人の主体的意思決定に基づく。また、本部は、各仕入先への代金の支払いを通例、上告人に代わって代行しているが、これは事実上の代行事務にすぎない(本件基本契約書第18条4項参照)。仕入れ代金支払いの法的主体はあくまで上告人本人である。
  本部は、上記セブン-イレブン・システムの一環として、記帳・決算の代行、納税申告書の作成などの協力も行っているが、これらの行為の主体、つまり会計主体・納税主体はあくまで法的に上告人本人である。それゆえ、各仕入先からの上告人本人宛の請求書、領収書等(以下「本件請求書等」という)の書類は、本来であれば、上告人本人が自己の責任において自己の事業所に備え付け、管理、保存しておかねばならない筋合いのものである。後に項を改めて詳論するように、そうすることが税法上も企業会計上も商慣習上も上告人本人の義務となっている。もし、本部がフランチャイズ業務の必要上、本件請求書等を必要とするというのであれば、本部は、本件請求書等の原資料は上告人本人に戻し、そのコピーを保存することとすべきである。以上はものごとの筋道であり、社会の常識でもある。
  しかし、上告人本人は本来、自己宛の本件請求書等の引渡しを求めるのが当然であるが、本件ではそれに代わる報告を求める訴訟を本部に対して行っている。これは、筋道からいえば、まことに奇妙でありミステリといわねばならない。もし、原判決のように、本件請求書等の引渡しに代わる報告を行うことすらを拒否するというのであれば、本部の行っている代行業務に様々な法的疑問が生ずる。たとえば、本部が上告人本人に代わって所得税や消費税等の納税申告書の作成代行業務を事実上行っている。上告人本人が自己の納税申告書等の作成の根拠となった本件請求書等を報告という形においてすら確認できないというのであれば、本部の事実上の代行業務はその代行の域をこえるものとみなければならない。
  税理士法2条1項は、無償の場合を含めて、継続的に行う税務代理、税務書類の作成、税務相談を税理士の独占業務と規定している(拙著『税法学原論・6版』青林書院453ページ以下)。上に見たように、本部の事実上の代行業務はその代行の域をこえるものとみなければならないので、本部は税理士法違反の行為をしている疑いが指摘されねばならない(税理士法2条1項、52条、59条1項3号)。
  以上、鑑定人の指摘したところは、本件基本契約書第2条(独立の事業者)においても明文で確認されている。すなわち「①甲〔本部〕と乙〔加盟店。上告人本人〕とは、フランチャイズ関係においては、それぞれ、本部と加盟店とを運営する役割を果たすことになるが、ともに独立の事業者であり、いうまでもなく、乙は、甲の代理人でも、使用人でもなく、また甲のために商行為その他を行なう何らの権限や地位をもつ者ではない。②セブン-イレブン店の経営は、乙の独自の責任と手腕により行われ、その判断で必要な従業員を雇用等使用主として、すべての権利を有し、義務を負う。」

2 上告人本人には本件請求書等を常時、備え付け、管理、保存しなければならない税法上の義務がある
(1) 上告人本人が税法上独立した納税義務者である。
  本部ではなく、上告人本人が税法上自らの名前で自ら申告し、納税する義務を負う。そして、上告人本人が自己の事業所に本件請求書等を常時、備え付け、管理、保存しなければならない税法上の義務を負う。もし、上告人本人が自己の事業所に本件請求書等を常時、備え付け、管理、保存していない場合には、上告人本人は税法上様々な法的不利益を受ける。
  所得税法148条1項は、青色申告納税者につき所定の帳簿書類を備え付けてこれに取引を記録しかつ当該帳簿書類を保存しなければならないと規定している。所得税法強行規則56条から62条は、帳簿書類の記載等について規定する。そして、同規則63条は、原則7年間の保存義務を規定している。
  もし、上告人本人が、上記の義務規定に違反した場合には、青色申告の承認の取消し処分を受ける(所得税法150条1項1号)。上告人本人への通常の税務調査(所得税法234条)の際に、所定の帳簿書類を提示しない場合には、同人は、青色申告承認取消し処分を受けることになる。青色申告承認取消し処分を受けると、上告人本人は、青色事業専従者給与(所得税法57条)、青色申告特別控除(租税特別措置法25条の2)、引当金・準備金(所得税法52条以下・租税特別措置法20条以下)、更正の制限(推計課税禁止)・更正の理由付記(所得税法155条)などの税法上の特典の適用が剥奪されるという税法的不利益を受ける。
  この本件請求書等の常時、備え付け等の義務については、最高裁判例によっても確認されている。事案は法人税法に関するものであるが、本件上告人に適用される所得税法についても、同判例はそのまま妥当する。最高裁平成17年3月10日第一小法廷判決(甲7号証)は、いう。
  「法人税法126条1項は、青色申告の承認を受けた法人に対し、大蔵省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録すべきことはもとより、これらが行われていたとしても、さらに、税務職員が必要と判断したときにその帳簿書類を検査してその内容の真実性を確認することができるような態勢の下に、帳簿書類を保存しなければならないこととしているというべきであり、法人が税務職員の同法153条の規定に基づく検査に適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて当該帳簿書類を保存していなかった場合は、同法126条1項の規定に違反し、同法127条1項1号に該当するものというべきである。これを本件についてみると、前記事実関係によれば、上告人は上記調査が行われた時点で所定の帳簿書類の提示を求められ、これに応じ難いとする理由も格別なかったにもかかわらず、帳簿書類の提示を拒み続けたということができる。そうすると、上告人は、上記調査が行われた時点で所定の帳簿書類を保管していたとしても、法人税法153条に基づく税務職員による帳簿書類の検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存することをしていなかったというべきであり、本件は同法127条1項1号に該当する事実がある場合に当たるから、被上告人が上告人に対してした本件青色取消処分に違法はないというべきである」。
  この最高裁判例によれば、納税義務者である上告人本人の事業所において本件請求書等を常時、備え付け、管理、保存しておくべきであり、税務調査の際にそれを提示できるようにしておかねばならないことになろう。
  控訴人〔上告人〕らの控訴を棄却した原判決は、この最高裁判例にも違反するものといわねばならない。

(2) 消費税法30条7項は、納税義務者である事業者が仕入れ税額控除(消費税法30条1項)に関する帳簿および請求書等(平成9年4月から「帳簿及び請求書等」を適用要件とすることになった。それまでは「帳簿又は請求書等」となっていた)を自己の事業所に保存しない場合には、仕入れの際に負担した仕入れ税額控除を適用しないこととしている。
  消費税法58条は、納税義務者である事業者に帳簿の備え付け等を規定している。そして、消費税法施行令71条2項は7年間の帳簿の保存義務を規定している。
  ところで、消費税法30条1項の仕入れ税額控除を適用することは、消費税の法的本質に関する。消費税は、30条1項の仕入れ税額控除を適用することにより、二重課税、三重課税を行わない間接税としての付加価値税である。このことは、税制改革法(昭和63年法律107号)4条、10条、11条によって「立法事実」となっている。もし、帳簿および請求書等の保存がないことを理由に、仕入れ税額控除の適用が否認された場合には、前出の青色申告承認取消し処分のときは単に青色申告の特典が剥奪されるにとどまるのに対し、消費税の法的本質が全否定されることを意味する。つまり、本件請求書等の保存・提示がない場合には、消費税は、付加価値税(非累積税)から累積税としての取引高税に変質することになる。これは、零細な事業者である上告人らの自由権的生存権(憲法25条1項)を脅かすことになることを意味する。このこともあって、現に消費税の滞納が増加しており自殺者もないではない。
  消費税法30条7項の「帳簿及び請求書等」の保存の法的意味について、最高裁判例の示すところが注意されるべきである。
  たとえば、最高裁平成17年3月10日第一小法廷判決(甲7号証)は、いう。
  「事業者が消費税法30条1項の適用を受けるには、消費税法施行令50条1項の定めるとおり、同法30条7項に規定する帳簿を整理し、これらを所定の期間及び場所において、同法62条に基づく国税庁、国税局又は税務署の職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存することを要し、事業者がこれを行っていなかった場合には、同法30条7項により、事業者が災害その他やむを得ない事情によりこれをすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書)、同条1項の規定は適用されないものというべきである(最高裁平成16年12月16日第一小法廷判決、最高裁平成16年12月20日第二小法廷判決参照)。前記事実関係によれば、上告人は、被上告人の職員から上告人に対する税務調査において、適法に帳簿書類等の提示を求められ、これに応じ難いとする理由も格別なかったにもかかわらず、帳簿等の提示を拒み続けたということができる。そうすると、上告人が、上記調査が行われた時点で帳簿等を保管していたとしても、同法62条に基づく税務職員による帳簿等の検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて帳簿等を保存していたということはできず、本件は同法30条7項にいう帳簿等を保存しない場合に当たり、上告人に同項ただし書に該当する事情も認められないから、被上告人が上告人に対して同条1項の適用がないとしてした本件各更正処分等に違法はないというべきである」。
  控訴人〔上告人〕らの控訴を棄却した原判決は、この最高裁判例にも違反するものといわねばならない。

3 上告人本人は企業会計上、商慣習上、本件請求書等を確認する必要があり、また本件基本契約書第41条(セブン-イレブン・チャージ)のチャージ額を計算するうえにおいて、本件請求書等を確認する必要がある
  本部は、簿記会計業務を上告人本人に代わって事実上代行しているにすぎない。会計主体はあくまで上告人本人である。その簿記会計に基づいて上告人本人が、税法上、自己の名前において自己の責任において、たとえば所得税確定申告書を作成し、納税することになる。青色申告者は、自己の貸借対照表、損益計算書を同確定申告書に添付しなければならない(所得税法149条)。
  企業会計上も、商慣習上も(商法1条2項、19条)また本件基本契約書41条(チャージ)の履行のうえにおいても本件請求書等を上告人本人がどうしても確認しなければならないことがらを、ここでは1つだけ指摘することとしたい。
  企業会計上、商慣習上、仕入値引・仕入報奨金は売上原価からの控除項目とされる。仕入れにあたって量目不足・品質不良・配達遅延など、各加盟店の諸事情に応じて仕入先から各加盟店に対して個別に仕入値引が行われる。また、仕入れが一定以上になった場合など、各加盟店の諸事情に応じて仕入先から各加盟店に対して個別に仕入報奨金(リベート)が支払われる。このような仕入値引・仕入報奨金(以下、単に「仕入値引」という)は企業会計上、商慣習上売上原価からの控除項目となる。もし本件本部のように、本件請求書等を各加盟店に確認させないで、一方的に「仕入値引」というネーミングの数字を計算書に書いて送りつけるようなものは、企業会計上、商慣習上は仕入値引とはいえない。それは、営業外収入として「雑収入」であって、売上原価から控除される仕入値引ではない。添付資料1の北一郎さん(仮名)の事例で説明すれば、もし、各仕入先から各加盟店に個別に諸事情が示されないものは企業会計上、商慣習上の仕入値引ではなく、雑収入として計上されるべきものとなる(北一郎さんのあるべき損益計算書に雑収入として298,000円が計上されることになる)。本部が示す「仕入値引」なるものが、真実、企業会計上、商慣習上の仕入値引として売上原価控除項目を構成するものであるかについては、上告人本人が本件請求書等を個別に具体的に確認する必要がある。
  











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加盟店オーナー・北一郎さん(仮名)の事例
〔出所〕添付資料1(週刊金曜日08.3.21号)


  そのような個別の具体的確認をえられないものまでを「仕入値引」ということで、売上原価控除項目を構成するものとして扱い、売上総利益を計算し、その分を含めて本件基本契約書41条のチャージを課すことは、違法である。
  このように、上告人本人としては、本件請求書等を個別に具体的に確認しない限り、自己の財務諸表を適正に作成できないのであり、また、本件基本契約書41条の正当なチャージ額を計算できないこととなるわけである。

4 本件基本契約書第19条のオープンアカウントの法的性格
(1) 本部と各加盟店との間のフランチャイズ契約において、金銭債権債務の法律関係が生ずるのは、本部がセブン-イレブン・システムの指導等の対価として各加盟店から収受する本件基本契約書41条の高率のチャージについてだけである。各加盟店が各仕入れ先から仕入れた代金の支払い事務の代行を含めて、本部の行為は事実上のものであって、法律関係を構成するものではない。
  以上の本件法律関係の本質に鑑みると、オープンアカウントとは、本部と各加盟店との間の金銭出納等の事実上の計算整理記録にすぎない。本部は、各加盟店から預かった売上代金から、各加盟店の仕入代金を各仕入先に支払っているが、より正確に言えば、これは本部が支払い事務を事実上担当しているにすぎない。本部の支払い事務の代行は、本部と各加盟店との間の法的取引関係ではない。
  この点についてコメントを加えておきたい。各加盟店は、自己の店の売上金を本部へ送金している。各加盟店から本部への送金は、預かり金(deposits)にすぎない。本件基本契約書18条4項も「甲〔本部〕は委託商品の販売預り金の支払いを引き受け、乙〔各加盟店〕に代わって決済する」と規定している。先にも指摘したように、本部は、その対価として高率のチャージを収受するという法的地位を有するにすぎない。
  このように、本部と各加盟店との間には、継続的な債権債務関係は生じない。しかるに、本件基本契約書21条はオープンアカウントについて商法529条以下の「交互計算」の法理を準用すると規定している。そして、オープンアカウントの借方残高を本部の各加盟店への債権、つまり各加盟店の本部への負債になるとし、この借方残高に年10%の利息を各加盟店に課することとしている(本件基本契約書19条3項)。これは商品仕入れの買掛金に利息を課することを意味する。商取引の買掛金には利息をつけないのが商慣習であり、企業会計の慣行である。しかも、奇妙なことに、オープンアカウントの貸方残高(各加盟店の本部への債権、つまり本部の各加盟店への負債)には利息を課する規定は存在しない。これはあまりにも均衡を失する。このような単なる金銭出納等の事実上の整理勘定科目にすぎない「オープンアカウント」を、「オープンアカウントに組み入れられて、その借方および貸方に計上される債権債務は、独立して個別に決済されるものではなく、一括して差し引き計算される」(本件基本契約書20条)とし、「交互計算」の法理へすり替えている。
  オープンアカウントに関する以上の諸規定は、巧妙な法的擬装であって、それ自体、民法90条違反であって、無効である。もとより、実質的に商取引の買掛金にすぎないものに利息を課する前出規定も、民法90条違反であって無効である。

(2) 企業会計上、商慣習上、店の経営上通常生ずる商品廃棄損・たな卸し減耗損(以下「商品廃棄損等」という)は、当然に自動的に売上原価を構成するものとされる。税務大学校でもそのように教えている。売上原価を構成されるということは、その分だけチャージの対象になる「売上総利益」が縮減されることを意味する。
  本件基本契約書には「売上総利益」に対して所定のチャージ率を乗ずるという規定しか存在しない(本件基本契約書41条)。契約にあたって、「売上総利益」についての特段の説明も本部担当者から示されていない。人々は通常の、社会常識の「売上総利益」(粗利益・荒利益)であると信じて、契約を締結している。
  実は、本部が株式の上場をする前までは、基本契約書には商品廃棄損等は売上原価に含めないとする特段の規定が存在した。このような特段の規定は企業会計、商慣習の常識に反するものであって、上場審査に不利になるとして本部は当該特段の規定を削除した。本部では、削除された後にも、特段の規定が存在した場合と同じような運用が行われている。すなわち、商品廃棄損等を売上原価に含めないで、この分も「売上総利益」を構成するものとされ、チャージの対象になるという運用を行っているわけである。これらは詐術である。
  鑑定人は、これは、企業会計、商慣習の常識に反する運用であるだけに、契約にあたって各加盟店が納得するだけの十分な説明を本部から行うべきであると指摘してきた。しかし、現実には本部は説明を行っていない。人々は、企業会計上、商慣習上、社会常識の「売上総利益」(粗利益・荒利益)であると信じ、契約を締結した。鑑定人の数多くのセブン-イレブン方式の事例検証に鑑みると、商品廃棄損等分も「売上総利益」を構成するとし、これにチャージが課される場合には、多くの加盟店が店の経営を維持することが困難となる。もし、人々がセブン-イレブン方式の「売上総利益」の実態を承知しておれば、人々は、契約を締結しなかったと告白している。それゆえ、このような契約は、民法95条の「要素の錯誤」により、無効であるといわねばならない。また、鑑定人は、仮に株式の上場前のような特段の規定(商品廃棄損等を売上原価に含めない)が存在したとしても、同特段の規定自体が民法90条違反であって、無効であると考えている(以上につき、拙著『税法問題事例研究』勁草書房273ページ以下の「コンビニエンスストアに係るチャージ契約の違法性-その財務面への解析」。甲14号証。添付資料1など)。
  以上の問題に加えて、本件基本契約書附属明細書(ホ)などによれば、問題の商品廃棄損等は、オープンアカウントの借方に計上され、この分にも利息が課されることになる。
  以上、その一端を記したにすぎないセブン-イレブン方式の問題を総合的に踏まえながら、私たちは、本件訴訟における本件請求書等引渡し、それに代わる報告の意味を洞察しなければならない。

5 控訴人(上告人)らの請求を棄却した原判決は、本部側の犯罪行為の疑いをおおいかくすおそれがある 
  以上で明らかのように、本件請求書等は上告人本人のものであって、上告人本人がその事業所において常時、備え付け、管理、保存しておくべき筋合いのものである。原判決は、結果的にはこの当然の社会の常識を拒否したわけである。
  先にも指摘したように、本件請求書等が上告人らに個別に示されないために、本部のいう「仕入値引」なるものが企業会計上、商慣習上真実の仕入値引であるかどうかは不明である。本部によって示された金額の大きさを含めて、不明である。本来、雑収入に計上されるべきものについてまで、本部がチャージを収受している疑いがある。このようなチャージは違法である。原判決は、このチャージの違法性をおおいかくすおそれがある。
  さらに、商品の仕入れについて、各仕入れ先から本部への請求額(a)と本部から実際に各加盟店への請求額(b)とがくい違っていても、本件請求書等を個別に確認できないために、真相を見極めることができなくなる。bがaよりも大きい場合も含まれると考えられる。1つだけその事例を挙げておきたい。元加盟店伊藤洋氏が現実に確認したピンハネの例である。鶏卵加工メーカー「イセデリカ」には本部は現実には198万円しか支払っていない。ところが、本部は「イセデリカ」からの仕入分について、加盟店グループに対して全体で230万円を請求しているものと思われる。もし、事実であるならば、この件だけで、実に32万円のピンハネをしていた、ということになろう(週刊金曜日08.5.16号掲載予定)。
  先の「仕入値引」、このピンハネは、単に経理の不透明さの問題で済ませるものではなく、本部側の詐欺、横領などの犯罪につながる重大問題を含む。このようにみてくると、原判決は、本部側の犯罪行為の疑いをおおいかくすおそれがある。

6 結 語
  以上の検討で明らかのように、本部に上告人本人が所定のチャージを支払い、本部が上告人本人からその所定のチャージを収受するという法律関係が生ずるにすぎない。本部と上告人本人の双方に継続的な債権債務関係が生ずる関係は存在しない。したがって、本件基本契約書21条で規定する「交互計算」の法理が妥当するような法構造は存在しない。同規定自体が単なる金銭出納等の事実上の整理勘定科目にすぎない「オープンアカウント」を「交互計算」の関係にすり替えようとする法的擬装であって、同規定および同規定につらなる一連の本件基本契約書規定は民法90条に違反し無効である。
  上告人本人については、まさに法的にも経済的にも社会的にも独立した事業者であり、独立した納税義務者であることが、改めて確認されるべきである。上告人本人が、各仕入れ先と直接的に自己の責任で自己の資金で、本件商品の仕入れについて契約をし、本件商品を仕入れている。本部はこの取引関係には全く登場しない。それゆえ、本件請求書等は、本部ではなく上告人本人のものである。上告人本人が本件請求書等を税法上も企業会計上も商慣習上も自己の事業所に常時、備え付け、管理、保存しておくべき義務を負うている。本部がフランチャイズ業務の遂行上必要であるというのであれば、本件請求書等のコピーを保存しておくこととすれば、足りる。税法上の要請についてさらに言えば、原判決は、最高裁平成17年3月10日第一小法廷判決(甲7号証)等に違反(最高裁判例違反)するものとなっていることが重大である。
  以上要するに、本来であれば本件請求書等(原資料)は上告人本人に戻されねばならないはずのものである。このことは、ものごとの、社会の常識でもある。本件訴訟は、本件請求書等(原資料)の引渡しに代わる報告を本部に求めるものであるが、これを拒否する理由は全く存在しない。原判決は、破棄されねばならない。そうでなければ、著しく正義に反する。

以 上